グローランサ備忘録

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新パヴィス総督ハルシオン・ヴァル・エンコース

周知のように、1610年、新パヴィスはルナー軍の前にたった一日で失陥し、包囲者に門戸を開放した。暴動が起きたが、首謀者は捕らえられ殺された。抵抗する者は組織的に虐殺され、または即座に処刑された(あなたの解釈による)。イェルマリオの支配者一族との争いは多くの人にとって驚きだったが、ドラサールの近親者が粛清されたことはそれほどの驚きはなかった。


その後14年間、都市はルナーの手中にあったが、最初にやってきた軍勢はすぐに出身国に帰っていった。ルナーの初代総督であるソル・イールは、蛮族やトロウルとの平和を維持し、街の財源を充実させた。この間、オーランスのカルトは弾圧されたが、オーランス司祭の政治的影響力により、彼らの一部は都市に留まることができた。ソル・イールはまた、都市の統治をほぼ自治に任せることを好んだが、市民や犯罪者に直接介入する権利を留保していた。市評議会は占領軍から独立しており、「ルナーの支配は一般的には慈悲深く、抑圧的でない」という丁寧な作り話が維持された。ソル・イールは市の幸福に心を砕き、現地の当局と協力し協調しようとした。


ソル・イールは、“聡明なる”タティウスがドラゴン・パス総督に就任すると解任されたが、これは間違いなく帝国の政局が変化した結果であった。後任のハルシオン・ヴァル・エンコースは、非常に自己中心的な人物で、属地総総督の側近であった。ハルシオンは信頼に足る人物ではなく、簡単に嘘をつき、利益を得るために友人を背後から刺し、面白半分に老人から盗みを働いた。もちろん、属領地総督はハルシオンをこの仕事に最適と考えたのである。彼は以前、バラザール管区の責任者であり、また、属領地総督の代理として聖王国での不正な任務を遂行したこともある。強欲で二枚舌のハルシオンだが、属州総督に対する個人的な忠誠心と有用性を買われての起用であった。ハルシオンは右腕となる娼婦のマルーサを伴い、“不気味な”ギム・ギムを助言者に起用し秘密を共有した。


その後3年間、ハルシオンの政権は冷酷で、凶悪で、徹底的に評判の悪いものであった。しかし、彼はボールドホームとミリンズ・クロスで支持を維持した。それは、上官の命令には何でも従うという姿勢のためであった。オーランス寺院は閉鎖され、他の寺院はハルシオンに個人的な貢物をさせられ、蛮族は侮蔑的に扱われるようになった。しかし、聖王国やドラゴン・パスでの戦争により、ハルシオンはソル・イールに比べて使える軍資金が少なくなってしまった。彼は拝領地の秩序を維持するために、嫌われ者のローンのラウスに一層頼らざるを得ず、ソラントス伯に多くの非公式な権限を与え、プラックスではセーブル族のカーン、赤のイニエレに頼った。


イラスト:Jennell Jaquays


要するに、ハルシオンは自分の担当から金を奪うような、凶悪で腐敗した総督だった。しかし、彼は賢明にも利益の一部を上官に送り、彼らのために汚い仕事をすることを決して拒否せず、“不気味な”ギム・ギムをはるかに効果的に利用した。


この間に、「月の仮面」結社は準軍事・犯罪組織としての色彩を強めていった。“不気味な”ギム・ギムの私兵として、多くのルナー兵が所属していたと思われる。


Q: ハルシオンは、原作のグリフィン・マウンテンではオークとしてデザインされていたのでしょうか?

A: 原作ではとは? いいえ、彼はルナー帝国のバラザール公吏を務める、厄介な自己中心的な青年だった。

グレッグはずいぶん書き直した *1 。グリフィン島でもハルシオンはオークではなく、オークを指揮する悪の魔道士だったはずだ。でも、私はグリフィン島を開くたびに、ちょっとヒヤッとする *2


ハルシオンは「Alcyone」(「カワセミ」)が語源で、私はハルシオンを描写するときにヒューイ・ロング *3 を少し拝借するのが好みだ。野心的で、冷酷で、デマゴギー的で、とても危険な存在である。


特にとりあげるべき重要な点は、1622年から1624年にかけて、ルナーによるプラックスの占領は、総督ハルシオンに率いられているということだ。七母神寺院は当初ポルーサ *4 とマルーサ *5 で分割されるが、ポルーサの在任期間は短いのではないかと思っている。そして、“不気味な”ギム・ギムが真の支配者であると多くの人が考えるだろう。


ギム・ギムは恐ろしい男であるはずだ。凶悪なルナーの準軍事組織/犯罪の元締め/組織犯罪集団/非番の兵士を指揮し、混沌カルトや暗殺者などと足並みを揃える(あるいはそれ以上)。 彼は素晴らしい悪役である。


Jennell Jaquays のコメント: いや……彼はもともとルナーの地方行政官として意図されていたんだ。

A: ハルシオン・ヴァル・エンコースはグローランサ*6 以前にはいなかった。グレッグの要望で我々が「砦」を追加し、その砦の1つにルナーが存在することにしたときに登場したのだ。

ハルシオン・ヴァル・エンコースは私 *7 のPCの一人で、少なくとも名前はそうだ。私はその名前が好きで、『Griffin Mountain』で使った。彼(ハルシオン)は、私がプレイしていたRQキャンペーンでは、強力なトロウルの精霊に憑依された他のPCに殺害され、生き残ることはできなかった。私はそのオリジナルPCを保管している。


こうなるとは夢にも思わなかった。自分の物語を語り終えた後、キャラクターが何をしていたかを知るのは、いつも楽しくて驚かされる。


誰かの言葉: ハルシオンはエルコイ、バラザールでの任務を経てパヴィスに行った。本人はその任務を大きなステップアップと考えている?(笑)


A: ハルシオンの年齢は『Griffin Mountain』では25歳とされている。マルーサの年齢は明記されていないが、「若い女祭」と書かれている――ということで、ハルシオンと同じくらいの年齢と仮定してみよう。『Griffin Mountain』が1610年代後半、たとえば1618年のことだとすると(RQ2の『Borderlands』の冒険を終えた後に行くことになっており、1615年がシナリオの始まり)、プラックスでの破廉恥行為をしていた期間、この悪党たちは二人とも20代後半から30代前半ということになる。


新パヴィスでは悪名高いマルーサだが、太陽領では彼女の悪行はかなり目立たないようだ。「……ラウス公が「七相の小杖」 *8 を陽の天蓋に納めたことを、どういうわけか女祭マルーサは知ってしまった。祖先崇拝者であるラウス一家には必要のない家宝だったが、「赤い魔女」はその杖が自分のような野心的なルナーの魔術師にとって、非常に貴重であることはもちろん、信じられないほど役に立つと分かっていた。自分に言いなりの光の導き手ラエルタスを通じて、彼女はインヴィクタスに暗号文を送った。マルーサは陽の天蓋寺院からほど近い川の町、ステーブルフォートに密かに赴いた。インヴィクタスはついに欲望に良心が打ち負かされ、ある夜遅く、寺院の金庫から杖を取り出し、彼女に会うために抜け出した。……」(『最後の試練』(原題:One Last Tryst) *9


ソル・イールの罷免後、プラックスの総督を務めていたハルシオンは、持ち前の強欲さと、上層部が主張する「これからは地方が自給自足する時代だ」という主張と、“聡明なる”タティウスがドラゴン・パスにある昇月の寺院計画に必要な人員、役獣、装備、奴隷を執拗に要求してくることの板挟みに悩まされた。パヴィス郡は容赦なく課税され、拝領地にはただ容赦なく血が流れた。ハルシオンは陽の天蓋領も貪欲に狙っていたが、休戦協定により徴税人は陽の天蓋を蚕食することができなかった。これは共犯者である赤い魔女マルーサでさえ、インヴィクタス伯をおだてて変更させることができなかった。


「大いなる冬」*10 の間、ハルシオンは新パヴィスで「ルナーの食糧を求める者は、その名が公式名簿に記録されていることを証明しなければならない」と主張した(それ以前はティーロ・ノーリの貧救院がすべての来訪者を歓迎していた)。飢えた人々は、ほとんどおがくずのような小さなアワ餅を受け取るだけだった。しかし、総督はハートランドから大量の食料を持ち込んだと言われている。飢えた難民が街に押し寄せる中、ハルシオン総督は破格の入市料を課し、絶望した農民や取り残された遊牧民に払える者はほとんどいなかった(しかも、中に入っても食事が与えられる保証はない)。ルナー兵でさえも配給が不足していた。しかし、総督は謎めいた「塩漬け模擬豚」の樽を売って大儲けしたという。


ハルシオンは「遊牧民をうち滅ぼす」と豪語していたにもかかわらず、1625年、ムーンブロス会戦でプラックス人の襲撃の文字通り直前に新パヴィスへ逃亡し、ルナー軍をジャルドンの大軍の前に全滅させるにまかせた。その後、アーグラスの包囲陣が破れたため、数日後に都市を脱出することに成功した。ハルシオンは新パヴィスから脱出し、マルーサとともに帝国に戻ることになる。後に、この二人は「真竜の目覚め」の数少ない生き残りであったという噂が流れた。


(New Pavis: The Lunar Occupation – The Well of Daliath より)


*1:たぶん、汎用ファンタジーサプリメントとして提出された原本をグレッグがグローランサ用に書き直した? 日本で発売された「グリフィン・アイランド」はその元をベースにしていると思われる?

*2:意味はよくわからない

*3:ヒューイ・ロング - Wikipedia

*4:“忍耐の人”ポルーサ。もともとのパヴィス七母神寺院の女祭

*5:ハルシオン・ヴァル・エンコースの配下。「グリフィン・アイランド」ではメガエラの女祭だが、ここではジャーカリールの女祭。

*6:グローランサ版の「グリフィン・マウンテン」

*7:Jeff Richard

*8: Wand of the Seven Phases。詳細不明。Borderlands に出てくるのかな

*9:Mob 氏の記事 「Cradle Aftermarth」の記事からの引用みたい

*10:1621年~22年の2年の冬の大災害。「オーランスの死」